私はケースワーカーとして、これまで数多くのゴミ屋敷問題に直面してきました。その度に感じるのは、この問題の根深さと、支援の難しさです。しかし、同時に、人々の変化を目の当たりにする喜びも感じています。忘れられないのは、ある一軒家のゴミ屋敷です。そこは、隣家との境界までゴミが溢れ、異臭が近隣住民を悩ませていました。住人は高齢のCさん。何度訪ねても、玄関を開けてくれることはありませんでした。郵便受けには、督促状や行政からの通知が山のように溜まっていました。私は毎日、Cさんの家の前で声をかけ続けました。「何かお困りではありませんか?」「お手伝いできることはありませんか?」最初の数週間は全く反応がありませんでしたが、ある雨の日、私は傘をさしながら、いつもと同じように声をかけました。すると、薄暗い玄関の奥から、Cさんの震える声が聞こえてきました。「…風邪をひいてしまった…」。私はすぐに地域の医療機関と連絡を取り、Cさんの受診を手配しました。病院から戻ってきたCさんは、私に少しだけ心を開いてくれました。彼女は長年一人暮らしで、夫を亡くしてからは塞ぎ込むようになり、次第に物をため込むようになったと言います。寂しさと不安から、ゴミを手放すことができなかったのです。私たちはCさんの健康状態を最優先に考え、まずは家の中の衛生状態を改善することから始めました。地域の清掃業者と福祉サービス、そしてボランティアの皆さんの協力を得て、大規模な片付け作業を行うことになりました。Cさんは最初、片付けに抵抗を示しましたが、私が「これはCさんのための作業です」と繰り返し伝えると、少しずつ納得してくれました。片付け作業は想像以上に大変でした。長年積み上げられたゴミの山は、Cさんの思い出と重なり合っていました。私たちはただゴミを捨てるのではなく、Cさんの気持ちに寄り添いながら、一つ一つ丁寧に物を整理していきました。写真や手紙が出てくるたびに、Cさんは昔の思い出を語ってくれました。ゴミが減っていくにつれて、Cさんの表情は明るくなり、次第に冗談を言うようにさえなりました。私はこの経験を通して、ゴミ屋敷問題の解決には、物理的なアプローチだけでなく、住人の心のケアがいかに重要であるかを痛感しました。