ゴミ屋敷におけるペットボトルの蓄積は、単なる空間の占有や火災のリスクにとどまらず、内部に放置された液体の化学的・生物学的変化を通じて、居住者の健康に甚大な被害を及ぼすバイオハザードとしての側面を持っています。本稿では、放置された飲料および排泄物入りのペットボトルがもたらす健康リスクについて、環境医学的視点から分析します。まず、飲み残しの茶や清涼飲料水が含まれたペットボトルが常温で長期間放置されると、内部では空気中の細菌や真菌(カビ)が爆発的に増殖します。特に糖分を含む飲料は、酵母による発酵プロセスを促進し、二酸化炭素とアルコール、さらには有機酸を生成します。この過程でボトルの内圧が上昇し、容器が膨張、時には爆発して腐敗した液体を室内に飛散させます。飛散した液体は壁紙や畳、絨毯を汚染し、アスペルギルスなどの有毒なカビの温床となります。これらの胞子を日常的に吸い込むことで、居住者は過敏性肺臓炎や真菌性気管支炎などの深刻な呼吸器疾患を発症するリスクが高まります。さらに深刻なのは、排泄物入りのペットボトル、いわゆる「尿ボトル」がもたらす健康被害です。尿は排出直後から細菌による分解が始まり、尿素がアンモニアに変換されます。密閉されたボトル内ではアンモニアの濃度が極限まで高まり、容器の僅かな隙間やプラスチックの微細な孔を透過して、室内に高濃度のアンモニアガスが放出されます。アンモニアは強い刺激性を持ち、結膜炎や角膜炎といった眼科疾患、鼻腔や咽頭の粘膜損傷を引き起こします。また、長期間の曝露は嗅覚の減退(嗅覚障害)を招き、居住者が自身の部屋の異常な臭いに気づけなくなるという負のフィードバックを引き起こします。さらに、これらのボトルが崩落したり、居住者がその上で生活したりすることで、皮膚との接触が起こり、接触性皮膚炎や細菌による皮膚感染症を併発します。ゴミ屋敷におけるペットボトルの山は、もはや無機質なプラスチックの集合体ではなく、常に有毒ガスと病原菌を放出し続ける「生物化学兵器」に近い存在となります。このような環境下での生活は、居住者の免疫力を著しく低下させ、最終的には多臓器不全や孤独死へと繋がる致命的な引き金となるのです。物理的な撤去作業とともに、高度な除菌・消臭、そして居住者への医学的フォローアップが不可欠とされる理由は、ここにあります。