ゴミ屋敷化の初期段階で最も重要なのは、本人が自覚していない、あるいは隠そうとしているセルフネグレクトのサインをいち早く察知することです。民生委員には、日常の何気ない風景の中から、生活の乱れの予兆を読み取る「気づき」の技術が求められます。訪問時に玄関先でチェックすべきは、ポストから溢れそうな郵便物やチラシ、不自然に閉め切られた雨戸、そして以前は手入れされていた庭木の枯死などです。また、本人と対面した際には、服装の汚れや乱れ、独特の体臭、あるいは会話の脈絡がなくなっていないかといった点に注意を払います。これらは単なるだらしなさではなく、認知機能の低下やうつ病、あるいはセルフネグレクトという深刻なSOSのサインである可能性が高いからです。民生委員がこれらの異変に気づいたとき、すぐに「部屋を片付けましょう」と切り込むのは得策ではありません。まずは「最近、お変わりありませんか」「お困りのことはないですか」という開かれた質問を投げかけ、本人の内面の変化を慎重に探ります。ゴミ屋敷問題の根底にあるのは、多くの場合、自分の健康や生命を維持することに関心を持てなくなる「意欲の喪失」です。民生委員は、居住者がかつて大切にしていた趣味や、誇りに思っていた仕事の思い出を刺激することで、心の底に眠っている「人間らしい生活への渇望」を呼び起こします。また、ゴミ屋敷化を加速させる要因として、近親者とのトラブルや経済的な困窮が隠れていることも多いため、世間話の中から家族関係や家計の状況を把握する情報収集力も欠かせません。民生委員による「小さな気づき」が共有されることで、行政は深刻な事態に陥る前に、家事援助のヘルパーを派遣したり、医療機関への受診を勧めたりすることが可能になります。ゴミ屋敷は、ある日突然出現するものではなく、日々の「諦め」の積み重ねによって形成されます。民生委員が地域の中で張り巡らせているアンテナは、こうした静かなる崩壊を食い止めるための、唯一無二のセンサーなのです。気づくこと、そしてそれを独りで抱え込まずに繋げること。そのシンプルな繰り返しが、ゴミ屋敷のない地域社会を作るための土台となります。
セルフネグレクトの兆候を見逃さない民生委員の「気づき」の技術