ゴミ屋敷清掃の現場に十数年携わっていますが、近年特に増加しているのが、部屋全体がペットボトルで埋め尽くされた現場です。一般の方は「ただのプラスチックゴミでしょう」と軽く考えがちですが、私たちプロの視点から言わせていただければ、ペットボトルが主役のゴミ屋敷は、他のどの現場よりも過酷で、精神的にも肉体的にも過酷な作業を強いられます。ペットボトルの厄介な点は、その「空洞」と「密閉性」にあります。部屋に数千本のボトルが堆積すると、その隙間にゴキブリやハエが卵を産み、独自の生態系を形成します。ボトルを動かすたびに、無数の虫たちが一斉に這い出してくる光景は、何度経験しても慣れるものではありません。また、ペットボトルの多くには飲み残しが含まれています。時間の経過とともに液体は発酵し、内部にはガスが充満します。キャップを開けた瞬間に、腐敗した液体がスプレーのように噴き出し、私たちの防護服やマスクを汚染します。さらに深刻なのが、尿が入ったペットボトルの処理です。ペットボトルは密閉性が高いため、中に入れられた排泄物は時間の経過とともにアンモニアの濃度を増し、想像を絶する悪臭を放ちます。プラスチックを透過して漏れ出す臭いは、壁紙や床材の深部まで浸透し、通常の消臭作業では太刀打ちできません。作業中、足元は不安定なペットボトルの山であり、一歩踏み出すたびにバランスを崩す危険があります。ボトルのラベルを一枚ずつ剥がし、キャップを外し、中身をトイレや排水口に捨て、容器を洗浄・圧縮する。この気が遠くなるような工程を何万回と繰り返すのが、ペットボトルゴミ屋敷の清掃です。私たちが接する依頼者の多くは、決してだらしない性格なわけではなく、仕事での挫折や失恋、家族との死別などをきっかけに「生きる気力」を失ってしまった人々です。彼らにとって、ペットボトルを捨てるという単純な行為さえ、山を動かすような重労働に感じられていたはずです。作業が終わって、光の差し込む清潔な部屋を依頼主に引き渡すとき、彼らの多くは震える声で「ありがとうございます」と口にします。私たちはゴミを捨てているのではなく、彼らの人生を塞いでいたプラスチックの壁を取り払っているのだと自負しています。ペットボトルゴミ屋敷は、現代の孤立が生んだ病理です。私たちは、これからも防護服を身に纏い、その深淵に立ち向かい続けていきます。
特殊清掃員が語るペットボトルゴミ屋敷の凄惨な現場実態